LEFスピンオフ『人魚の歌』エピローグ
【前回までのあらすじ】
ぴょこ丸が徹夜で作った『ハデな水鉄砲』でハンターたちを無事撃破したハルナ。
2人に再び平穏な日常が戻るが、それは別れの始まりでもあった…
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「まことさん!申し訳ないね…いつもいつも…」
ぴょこ丸が連絡を取った相手は、なんでも王国の騎士団長らしい。
「いいですよーこのくらい。また何かあったらよろしく頼みます」
彼女とぴょこ丸は旧知の仲のようだ。
ぴょこ丸も自分に対するややぶっきらぼうな態度とは異なり、柔らかな雰囲気で話している。
拘束されたハンターと猟犬は、一旦王都に身柄を預けられることになった。
「しまった。扉の修理代ぶんどり損ねたな…」
「自分で壊したんじゃないか!」
つい、クセでツッコんでしまった。
「いや。壊れた要因はヤツにあるし…って壊したのはおハルちゃんじゃないか!」
「おハルちゃん!?」
ぴょこ丸のツッコミ返しにも驚いたが『おハルちゃん』とは…?
「昨日まで『アンタ』とか呼んでたのに、急に馴れ馴れしくないか?」
少し動揺しながら切り返すと
「仲良くなった人は『ちゃん付け』で呼ぶことにしてる。一緒に困難を乗り越えた仲だろ?」
ニヤリと笑ったぴょこ丸に『おハルちゃん』と呼ばれることに不思議とイヤな感じはしなかった。
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「さてと…朝の話の続きなんだけど…」
ぴょこ丸がハーブティを入れながら話を切り出す。
「なんだっけ?」
ハンターに追われる恐怖から解放されたからからか、おハルちゃんと呼ばれたからか、心なしか返答も軽くなる。
「もし、ほかに行くあてがないなら…」
そうだった。そんな話の途中だった。
「向こうの山のてっぺんに、昔世話になった占い師がいるんだ。少し遠いけど、今のおハルちゃんにとっては安心できる場所になるかもしれない。綺麗な水の湧いてる泉もあるんだ」
ぴょこ丸が壁に掛けてある『星の装飾がついた剣』を見つめながら話す。
その場所に思いを馳せているようだった。
「うん。ぴょこ丸が言うならそうするよ」
「よかった!とはいえ今日はバタバタしてたし、出発は明日にしようか」
「そうだね…なら、もう一晩だけ泊まっていこうかな?ハーブのお風呂も気持ちよかったし♪」
その日は、昼のうちに扉の修理を手伝って、夜はご飯を食べながらお互いのことを話したり、歌を聴かせたりした。
誰かのために歌うのも、案外悪くはないなと思った。
ゆっくりハーブ風呂に浸かって、昨夜と同様ベッドを占領して寝かせてもらった。
ぴょこ丸は今日も夜通し作業すると言っていた。
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翌朝、朝食を済ませて、いよいよ出発の準備をする。
だった2日ちょっとの付き合いだったが、離れるとなると少し寂しい。
「じゃあこれ。昨日の晩に仕上げといたから」
そう言ってぴょこ丸は『ハデな水鉄砲』の改良版と『パズルピース型のペンダント』を渡してくれた。
「こっちは威力と強度を調整してある。これで実践レベルで運用できる。ホルスターも付けたしね」
「こっちは?」
「それはただのアクセサリーじゃない。『導きの魔石』が埋め込まれてるから、同じアクセサリーを持ってる人同士を引き合う力がある。まこと団長も山の占い師も持ってるし、旅先で他にも出会うかもね。その時は迷わず頼りにするといい」
一晩でそんなものまで作ったのか…
つくづく感心する。
「おハルちゃん。キミの歌は素晴らしい。正しく使えば、誰かを癒すことも、誰かを守ることもできる。旅をしながら、たくさんの人にその歌を届けて欲しい…」
そう言って、ペンダントを首にかけてくれた。
「とりあえず、街までは送るよ。旅の準備と…あ!まこと団長に頼んだら護衛をつけてくれるかも!」
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旅の準備も整い、護衛も二人つけてもらえた。
これで安心して送り出すことができる。
たった2日ちょっとの付き合いとはいえ、やはり別れるのは寂しいものだ。
「じゃあ…オレはここで。おハルちゃん。気をつけて」
「うん。2日間本当にありがとう」
固く握手を交わす。
「何かあったらいつでもウチに来るといい。その時はまたハーブ風呂を用意しておくから」
「その時は私も、歌を聴かせるね」
お互いフッと笑って手を離した。
これでまた、お互い別の物語を紡いでいくわけだが、なんとなく、また会えるような気がしていた…
(…終わり)